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迷えるラム肉たち

インド旅行に行ってきた。友人二人とともに二週間ほど北インドと南インドの数か所を見てまわり、昨日帰ってきた。初日にいきなりお金をぼったくられたり、自分たちで雇ったはずのタクシー運転手から逃げるはめになったり、インド人と列車の席交渉で大混乱になったり、狂犬病かもしれない野良犬に全速力で追いかけられたり、まあ振り返ってみると数々のトラブルがあった。ただ、空港でWi-Fiをレンタルしていたおかげで困ったら何でもネットで調べられたのとGPSで常に現在地は確認できたのとで、特に飛行機に乗り遅れたり迷子になったりすることもなく、全体的には安全な旅だったなあと思う。そういう物が一切なかった時代の旅行者たちは全て自力でこなしていたと思うと、こりゃすごいな。

 

インドは汚かった。みんなゴミを道に捨てるし、道端に牛がたくさんいるから糞がいっぱい落ちているし、道路が整備されていないから砂埃が舞って店の商品が砂まみれだった。インドはカオスだった。列には全く並ぶ気が無いし、交通ルールはただ一つ「ぶつからなければOK」という精神で運転するし、なんならちょっとぶつかってたから「壊れなければOK」だった。インドは貧しかった。駅や観光地など人の集まるところには物乞いがたくさんいるし、タクシーで路地に入ると子供たちが数人でとおせんぼしてお金を要求してきた。そんな状況で、インド人は生きていた。当然のように生きていた。当然であり、それはとても自然に見えた。人間がいて動物がいて、あまりにもリアルに、そして力強く彼らは生きているのだった。そんな彼らを見ていると『あれ、自分はいまどこにいるんだ?』と思ってしまう。汚いって何だ、カオスって何だ、貧しいって何だ、幸せって何だ。僕の基準の方が実は異常で、彼らの方が普通なんじゃないか。僕は今どこにいるんだ。世界の中でどういう位置づけにいるんだ。そんなことを考えながら、考え疲れて、気付いたら日本に帰ってきていた。結局自分の現在地は分からないままである。あんなにGPSを駆使して無事に帰ってこられたというのに、やっぱり迷子である。

 

 

 

自宅に帰ってくると、当たり前だが出発した時のまんまの(汚い)部屋だった。所属していた劇団の引退公演が終わった翌日にインドに飛び立ったので、机の上には差し入れやら衣装やらが置きっぱなしになっていた。そうか、そういえば劇団を引退していたのだった。大学四年間、自己紹介のときにはとりあえず「演劇やっています」って言っておけばよかったのだけれど、気付いたらもうそれも言えなくなっていた。僕は四月からなんて自己紹介すればいいんだろう。「えーっと……休みの日はYoutube見たりギターを弾いたりとかですかね……あ、いや特にバンドとかやってるわけでもなくてその……はい、まあ何もしてないですね……」

 

やっぱり迷子である。